「すみれそよぐ」(朔出版 2020年11月刊)2020年11月21日 10:28

これは俳人 神野紗希 (こうの さき)の第三句集です。彼女自身の、結婚から出産・育児へ至る8年間に作った、344句が収録されています。

句集名は、

すみれそよぐ生後0日目の寝息

の句から採られています。これは、「出産後30分、母としてはじめて、手術台の上で詠んだ句」ということです。突然の破水でひと月以上早く出て来た息子の頼りない産声を聞いて、緊張の力が抜けたそうですが、人生の分岐点になった句ということです。

女性としておそらく最も充実した時間を、柔らかでまっすぐな感性で詠みあげた、心癒される句集だと思います。

句集の全体は、大体時系列に沿って配置されているようですが、火星句会でお目にかかった句も散見し、懐かしい気がしました。例えば

泳ぐ泳ぐ泳ぐ化石になる前に

萩ほろりほろり文鳥帰らない

といった句が検討された後の名のりで、「紗希でした~」と言う声が聞こえてくるようです。私が火星句会に参加させてもらった当初は、紗希先生も投句されるとは知らなくて、随分戸惑いました。大体が<うますぎるやろ~>という素朴な嫉妬心に撃沈されていました。とは言え、紗希先生の句と言えども、毎回沢山の特選のチェックが入るという訳でもなく、並選のチェックすら入らないこともあり、そういう時は少し残念そうな色合いの声で、自身を励ますように話されます。その声に、私は少しだけ励まされるのでした。

最後に、この句集で私が一番心惹かれた句を紹介します。

いま? 渋谷の交差点。雪が降ってる

これは恐らく結婚前の或る日の光景。携帯電話で話しているのでしょう。場所は渋谷でも町田でもよく、雪でなく雨でもよいのでしょう。大切なのは二人が繋がっているということ。そのふわふわ感がいい。

 

※初エッセー集「もう泣かない電気毛布は裏切らない」日本経済新聞社(2019/10/17)もお勧めです。

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